華僑という言葉

そもそも儒教の基本は祖先崇拝=孝だから、本籍に住むことを特別に重んじる。漢語における僑寓とか流寓とは、本貫(原籍=本籍)の対極にあることばで、必要にせまられて仮に外地に住んだり、出稼ぎするという意味である。まもなく帰郷することを言外にふくんでいる。旧中国では家族員とか親族員として登録することは、いわば絶大な証明力をもつ身の証なのであって、これがないものは糸の切れた凧、亡命・無頼のアウトローで、秘密結社にその世話をゆだねることになる。ここから、かつては「僑」を形容詞としては使っても、人や集団をあらわす名詞には使わなかった。(162-163)

もうひとつ、「華」という漢語は、華夏つまり文明の中心域を意味するから、短期の在外者はともかく、同化したり雑婚したりで外地に住みついた中国系の人々に「華」の字を冠することは、漢語としてはもともとはばかられた。(163)

この状況をかわったのは、1842年の南京条約からだそうです。
主権、人民、領土をはっきり規定した「国家」ができないと条約も結べませんからね。
イギリスがイギリスの保護領にうまれた中国人・中国系人をイギリスの臣民としようとしたのに、対抗して清国も彼らを臣民であると主張し始めます。
「華僑」の呼び方が普及してくるのは1890年代にはいってからだそうです(165頁)。