中国の大学入試

中国の大学入試について記事がありました。以下に引用します。



【国際情勢分析】「高考」に押し潰される受験生(イザ!2010/06/16)


中国では毎年、6月になると報じられる悲しいニュースがある。最近、台湾系大手携帯電話機メーカー、富士康(フォックスコン)の広東(かんとん)省深●(=土へんに川、しんせん)にある工場の従業員の自殺が続発して話題になったが、「高考」と呼ばれる大学入試のシーズンには必ず、受験生の自殺が発生するのだ。
■6月恒例の悲報

 中国メディアによると、今年の大学入試初日だった6月7日午前7時頃、中国中部の湖北(こほく)省北部にある広水(こうすい)市で、一人の男子浪人生が、12階建ての病院の屋上から投身自殺を図った。同じ湖北省の鄂州(がくしゅう)市でも7日早朝、女子高校生が自ら命を絶った。

 さらに、中国東部、江蘇(こうそ)省の鎮江(ちんこう)市でも7日、試験が始まる約4時間前に、21歳の受験生が、コンピューターのラインで首を吊って死んでいるが見つかった。中国紙によると、この受験生は、以前から精神上の問題を抱えており、2006年には約1年間、高校を休学したこともあったという。

 鎮江市の男子受験生のように、精神疾患の病歴を持つケースもあるが、多くは受験のプレッシャーに耐えられずに自殺に走ってしまうとされている。

 今年の受験生は中国全土で約957万人。「高考」は日本で言うところの大学入試センター試験に相当するが、大学個別の2次試験はなく、一発勝負だ。受験生は受験前に志望大学の一覧を提出する。その中から、点数によって合格校が決まる仕組みになっている。各大学は受験生の地域ごとの定員も定めており、大学の合格点に達していても地域で下位になれば入学は許されない。

 ■家族ぐるみの「戦争」

 就職難の昨今、有名大学、人気大学に入学できるかどうかで、一生が左右されるといっても過言ではない。1点、2点が将来が決まるのだから、その重圧は想像に難くない。

 中国のポータルサイトなどが5月に、受験生1万4892人と父母1万6507人を対象に行ったアンケート調査によると、75%の受験生が2月から4月までの3カ月間、強いプレッシャーを感じていたと回答。父母の63%もストレスを感じていたと答えている。

 中国の“受験戦争”は家族ぐるみの戦いだ。受験当日、会場まで付きそい、泊まり込む父母の姿はもはや風物詩ともいえるほど。毎年、不安そうな表情で門に張り付く父母の姿を写した写真が新聞に掲載される。そして、合格発表が終わると、今度は入学金を支払う余裕のない父母の自殺が報じられるようになるのだ。

 富士康を舞台にした一連の自殺騒動では、一人っ子政策のもと、「小皇帝」と揶揄(やゆ)されるほど過保護に育てられた最近の青少年の、精神的な弱さが指摘された。自殺に追い込まれる受験生にも同じことがいえる。そして、拝金主義がはびこる現在の中国の風潮も、大きく関係しているようだ。

  ■問題は社会の風潮

 中国共産党機関紙「人民日報」が発行する国際問題専門紙「環球時報」(英語版)によると、北京教育科学学院の専門家は「これらの受験生の自殺については社会が非難されるべきだ。人間の価値の評価を誤っている。ある職業やある職種の労働者は社会から見下されている。父母は子供たちが公務員になって欲しいと願い、社会の尊敬を勝ち取る富裕層やセレブになってほしいと願っている」と指摘している。

 別の専門家は、今年4月に開催されたフォーラムで、入試を年2回行うことを提案した。プレッシャーが分散されるというが、現在の中国の社会構造が変わらない限り、抜本的な改善策にはならない。それどころか、プレッシャーを感じる機会が増えるだけ、という結果にもなりかねない。

 一人っ子政策とほぼ時を同じくして整えられた現行の「高考」制度。震災時、義援金の額で人間の評価が計られたことを思い出す。“数字”がすべての物差しになりつつある昨今、自立できない青少年を生み出してきた「高考」や「一人っ子政策」を見直す曲がり角にあるのかもしれない。

 (中国総局 川越一(かわごえ・はじめ)/SANKEI EXPRESS)