日本語教師と中国語

2006年に中国にきて、来年3月で7年になります。
まあ、夏休み冬休みは日本に帰ってますので実質はもう少し短いです。
しかし、一時帰国時にはじめて出会った人に中国で日本語教師をしているというと、
「じゃ、中国語はペラペラですよね?」って聞かれます。
これにはいろいろ誤解があると思います(住んでいればペラペラになるという誤解もあるでしょう)。
まず、日本人日本語教師は直接法*1で教えることが普通ですので、中国語は授業には必要ありません。直接法といっても実際は、折衷法なので、中国語のフラッシュカードなどを使用したりすることもあります。
中国の学校で教壇に立つには、中国人と言えども普通話測試(発音も検定の範囲)で2級甲程度でないといけませんし、そもそも学生は日本人のまずい中国語を聞きに来ているのではありません
こういうと「それは単に中国語をサボるためのいいわけだ」という人がいますが、じゃあ、中国語の発音が2級甲になるまで、語彙や文法のニュアンスがネイティブ並みになるまではどうするんだという話です*2
もちろん、ひとつの国で教え続けることを決意したなら、その国の言葉はしっかりと勉強するべきです。それは、語学教師としての教養でもあります(誤用の背景をしるうえでも中国語の勉強は必要です)*3


初級文法の説明などは、教授法もある程度確立していますので、日本語で説明できますし、上級の複雑な話しになれば、その段階の学生は、日本語で聞いて日本語で理解できるようになっていますので、わざわざ外国人が中国語で説明する必要はありません。


そして忘れてはいけないことがまだあります。
中国は多民族国家です。私が今教えている大学も、少数民族がかなりいます。
漢化している少数民族も多いので、普通話はペラペラの学生がほとんどですが、
母語が普通話じゃない学生も当然います。
母語でなくても母国語ですから、私の中国語はもとより足元にも及びません。
しかし、彼らも母語ではないという配慮は忘れてはいけないと思います。


私の中国語のレベルがあがるにしたがって、年々、うちの大学の学生の日本語が下手になってるようにも思います。授業では中国語は基本的に使っていませんが、中国の教科書には、中国語を日本語に翻訳するという練習問題も含まれていますので、学生も私の中国語力をある程度しっています。
中国語がちっともわからない教師になんとか習ったばかりの語彙を使って一生懸命話すというのは、ものすごいいい練習になっていたんですよね。
今更、中国語ができないふりをするわけにもいきませんし、やや困っています。
会話の練習にはインフォメーションギャップが必要だといいます。
たとえば、
教師:「スーパーはどこにありますか?」
学生:「食堂の隣です」
教師:「はい。いいですね」
これは会話の練習です。しかし、こんなものは「会話」じゃありません。
教師が知らないことを質問するから、学生は伝えたいと一生懸命考えて答えるわけです。
これが赴任したばかりでスーパーが本当にどこにあるかわからない教師の質問だったら、学生の真剣度もかわってきますし、学習の定着も期待できます。
うまく言えなければその「挫折」が上達を促すはずです。


じゃ、中国に長くいる日本人日本語教師はどんなことができるか。
中国語話者に多い誤用を知っているので、先回りして誤用のもとをつぶしておけるとか、中国人教師が手を出しにくい、中国語→日本語の翻訳の練習を担当したりとか、いろいろ頭をつかっていかないと、中国語を知っていることが却ってマイナスになってしまいます。


オンラインの中国語レッスンの広告などをみると、日本語ができることを謳っているものが結構ありますが、入門ならともかく中級レベルで中国人に日本語で説明してもらいたいとは私は思いません。むしろイライラするのでやめて欲しいぐらいです。

*1:媒介語を使わずに日本語で直接教える方法

*2:中国には、むしろ中国語の勉強に熱心で授業がおろそかになっている教師がかなりいるとか。留学のつもりできていて、上達したら日系企業で働こうとか思ってる人が結構いるそうです

*3:多くの日本語教師養成講座では、お客さんの多い中国語・韓国語の初歩の初歩あるいは対照研究のさわりを学習します